家族信託が強制終了する「1年ルール」とは
- 行政書士 服部祥明

- 10月23日
- 読了時間: 4分

家族信託は、認知症による財産の凍結を防ぐための手段として、ますます注目されています。
将来のさまざまな事柄に対応でき、自由度も高い代わりに、仕組みについての理解と知識が欠かせません。
ルールを知らずに契約をすすめてしまうと、トラブルの原因になってしまうことも多々あります。
そこで今回は、家族信託の契約が強制的に終了してしまう「1年ルール」をご紹介します。
家族信託の登場者
家族信託を構成するのは、「財産を預ける人(委託者)」、「受託者(財産を預かり運用する人)」、「受益者(運用によって利益を得る人)」の3者です。
家族信託契約の導入の実態として、「委託者=受益者(親)」、「受託者(子どもまたは孫)」のケースが多いようです。
1年ルールとは
それでは早速、「1年ルール」について解説してきましょう。
1年ルールとは、一定の条件が1年間続くと、強制的に家族信託契約が終了する仕組みです。
このようなケースが該当する
(1)受益者=受託者の状態が1年間続いた場合
たとえば、受益者(親)が亡くなり、次の受益者を受託者(子ども)と同一人物に設定してある場合について、(受益者=受託者)の状態が1年間続くと信託契約は終了します。
たとえば、こんな事例が考えられます。
●委託者(親)、受託者(子ども)、受益者(親⇒子ども⇒孫)
受益権を、親が亡くなったら子どもへ、子が亡くなったら孫へ承継させていく計画です。このように、受益権を継承させていく「受益者連続型信託契約」も可能です。
親が死亡し、受益権が子どもへと承継されると、子どもは受託者と受益者を兼ねることになります。そして、この状態が一年間継続すると家族信託は強制的に終了し、孫に受益権を承継することができなくなります。
家族信託には二次相続以降の承継先の指定もできるというメリットがありますが、1年ルールの規定に注意しないと、メリットを十分に活かすことができないまま、信託が終了する事態に陥ってしまいます。
(2)受託者不在が1年続いた場合
たとえば受託者(子ども)が受益者(親)より先に死亡、または辞任した場合、1年以内に後任の受託者を選任しないと、信託契約は終了します。
そのほか、受託者が後見開始または保佐開始の審判を受けたとき、受託者が破産手続開始の決定を受けたときも、同様に信託契約は終了します(ただし、受託任務が終了しない旨、定めることも可能)。
●委託者(親)、受託者(子ども)、受益者(親)
この家族信託においては、受託者の死亡等により、任務が終了した場合、委託者および受益者が、あらたな受託者を選任する必要があります。
もしこの段階で、親がすでに認知症を発症していれば、次の受託者を決めることができず、受託者不在のまま1年が経過すると信託契約は終了します。
家族信託の1年ルールを回避するために
突然信託契約が終了してしまう事態を避けるための方法を事前に講じておく必要があります。
(1)第二受託者を指名する
強制終了の事態を回避する手段として、あらかじめ子どもの次の受託者(第二受託者)を定めておくのが有力な対策になります。
信託開始時に、適切な第二受託者がいないケースも考えられます。そのような場合は、受益者に、受託者(第一受託者)が不在になったときには第二受託者を指定できる権限を与えておく旨、契約書に盛り込んでおきます。あるいは、受託者を自然人ではなく、法人を指名しておくのも、ひとつの手段として考えられます。
(2)受託者と受益者を分離して設定する
最初から(受益者=受託者)とならない形で契約内容を設定しておけば、1年ルールを回避することができます。
また、複数の受益者(たとえば両親など)を指名しておくことにより、同様の対策が可能です。
(3)万が一強制終了になった場合の対策を立てておく
意図せずに信託が終了してしまった場合、信託財産が誰のものになるかという問題が起こります。信託が終了した場合の信託財産の帰属先を記載する旨を契約書に盛り込んでおけば、そのような混乱を避けることができます。
家族信託契約の構築はプロにお任せください
家族信託は、家族構成や財産状態などによって、その契約の中身は独自のものになります。自由度が大きく、長期間にわたる契約になるので、契約の内容には、リスク回避のためのあらゆる対策を盛り込んでおく必要があります。
後のちのトラブル防止のために、家族信託を検討する際は、専門家に相談しましょう。





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