農地を売却したいときにはどうすればいいか
- 行政書士 服部祥明

- 11月5日
- 読了時間: 5分

農地の売却や相続手続きは通常の土地の手続きと異なり、各県や自治体の農業委員会への届出や許可が必要です。
農地を相続した人がそのまま農業を行うのであれば、相続手続きは通常の不動産と同じですが、農業を続ける担い手がいなければ、売却することも考えられます。
しかし、農地には「農地法」という法律で様々な制限がかけられているため、売却したいと思っても難しい場合があります。
そこで今回は、農地を売却する際の障壁になる農地法の仕組みについて、その概略を説明します。
手放したくても処分できない農地
(1)農地法と農業委員会
耕作する人がいなくなったとか、相続が発生したときに、所有する農地を売却したいと考える農家の方が増えています。
しかし、農地の相続手続きや、売却は簡単ではありません。事前に各県や自治体の農業委員会への申請により、「農地転用」の許可や届出が必要になるからです。
(2)農地転用とは
農地転用とは、現在、農地として使われている田や畑などを、別の用途に使える土地に変えることです。
自分の土地をどのように使っても勝手ではないかと思う方も多いと思いますが、日本では、農地を他の目的で勝手に使用することが認められていません。
農地を農地以外の目的(たとえば宅地)として販売する場合は、農地転用によって、土地の「種目」を農地から宅地に変更することによって、住宅地としての売買が可能になります。
農地転用できる農地とできない農地
農地転用ができる農地は限られています。
(1)農地転用できる農地
農地転用の手続には「届出」と「許可」の2通りあります。
市街化区域内の農地(おもに第3種農地)は、対象農地のある市区町村の農業委員会に「届出」をすることで転用が可能です。ただし、市街化区域内の農地であっても、「生産緑地地区」に指定されている場合は、原則として転用はできません。
第2種農地の場合はハードルが高く、届出ではなく「許可」申請が必要です。
・第2種農地(市街地化が見込まれる区域内にある農地)
・第3種農地(市街地区域内または市街地化の傾向が著しい区域内にある農地)
(2)農地転用できない農地
農地転用ができないのは、以下の農地です。
・第1種農地(耕作面積10ha以上など生産性の高い農地)
・農用地区域内用地(市町村が定める農業振興地域整備計画で決められた区域)
・甲種農地(市街化調整区域内の土地改良事業が8年以内に行われた農地)
農地転用できない農地はどうしたらいいのか
それでは農地転用できない土地はどうしたらいいのでしょうか。3つの方法を紹介します。
(1)農地のまま売却する
農地法の手続き上、もっともスムーズに進めやすいのが、農地のまま、ほかの農業従事者や農業法人に売却する方法です。
デメリットとしては、宅地に比べて、農地の売却価格が安くなることや、農地の買い手が農業従事者に限られるため、買い手を見つけるために時間がかかる点などがあります。
(2)相続放棄する
相続によって農地を取得することで、管理の手間や固定資産税の負担が生じるのを避けたいのであれば、相続放棄という選択肢を検討することも可能です。
もっとも、相続放棄をすると、農地だけでなく、預貯金や他の不動産など、すべての相続財産を放棄することになりますので、農地以外の財産の状況を確認したうえで、慎重に判断することが大切です。
(3)ほかの農業従事者に貸し出す
地域の農業者や新規就農希望者に農地を貸し出すことで、賃料収入を得ながら耕作放棄を防ぐことができます。適格な農業者への賃貸であれば、農地法の許可(農地法第3条)が得やすいでしょう。
農地転用にかかる費用
農地転用する際には、さまざまな費用がかかります。代表的なものを紹介します。
(1)農地転用の手続き費用
農地転用の届出、申請のための手続費用(行政書士報酬)がかかります。対象の農地が、土地改良区に入っている場合は、別途その土地改良区の地区域除外決済金も発生し、ときに、それがかなり高額になるケースがあります。
また、土地の地目変更や所有者変更をするための登記費用がかかります。
(2)宅地造成費など
農地を宅地にする場合には、地盤を安定させるための宅地造成工事費用がかかります。費用は造成業者によって変わります。
(3)さまざまな税金
このほか、以下の税金が発生します。
●固定資産税が上がる
農地から宅地に地目を変更すると、課税の際の評価方法が変わって固定資産税が上がります。翌年に納める税金が増えることに注意が必要です。
●譲渡所得税
土地を売却した場合には譲渡所得税がかります。
税率は不動産の所有年数によって変わります。5年以下なら短期譲渡所得で、譲渡利益に対して39.63%、5年を超える長期譲渡所得で20.315%です。ちなみに、2037年までは復興特別所得税が含まれます。
●相続税と利子税
農地の納税猶予の特例を使えば、条件を満たすことで相続税の納税を猶予されますが、農地を譲渡したときは、猶予されていた相続税を加算税と一緒に納税しなければなりません。
専門家にご相談ください
農地の相続や売却は、一般の宅地よりも負担が重くなるものです。手続きが難しいのは、農地法によって、農地の権利移動や転用が制限されているからです。
農地転用の許可には、立地基準、周辺農地への影響、土地改良施設の機能への支障など、厳しい要件がありますので、面倒な手続きは専門家である行政書士に依頼してください。





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