【相続問題】もし遺言書が偽造されていたらどうするか


今回は遺言書の偽造の見方と、その対策について解説します。
公証役場が関わる公正証書遺言は偽造される可能性が低いですが、自筆証書遺言には偽造のリスクがあります。遺言書の筆跡があきらかに他人のものだとか、内容が不自然であるなど、遺言書の偽造を疑う事例が報告されています。
遺言書の不正の種類
遺言書の不正には、以下の3つの具分があります。
●偽造:第三者が遺言者の遺言書を作成すること
●変造:第三者が遺言者の遺言書を書き換えること
●破棄:第三者が遺言書を破り捨てたり燃やすことなど
遺言書偽造が疑われるポイント
(1)遺言者の健康状態
遺言者が、重度の認知症を発症している状態にもかかわらず、遺言書が理路整然と書かれているとか、入院中で意識が不明瞭だった時期に作成された遺言書については、偽造の可能性が高まります。
(2)筆跡や印影
遺言書の全文や訂正箇所が遺言者の筆跡と異なっているとか、遺言者が普段使用していなかった印鑑が押されている場合は、偽造の可能性があります。なお、自筆証書遺言の押印は実印でなくても有効です。
専門家に筆跡鑑定を依頼するケースも考えられますが、それだけで偽造を断定するのは難しいのが実情です。したがって、筆跡鑑定の結果と、ほかの状況証拠を合わせて総合的に判断する必要があります。
(3)作成年月日
たとえば、作成日が、遺言者が利き腕を骨折して字が書けない時期に重なっていたなど、作成年月日に疑いがある場合は要注意です。
(4)遺言書の内容
遺言者の生前の言動や価値観と著しく矛盾する内容や、明確な理由がないままに、特定の相続人に極端に有利な内容が記されている場合は、偽造である可能性があります。
(5)遺言書の発見状況
遺言書の保管や発見の経緯が合理的に説明できるかどうかは、偽造を判断するうえでの重要な要素です。
たとえば、特定の相続人が遺言書を保管していたケースでは、保管している間に内容が書き換えられるリスクもあります。
偽造された遺言書への対応について
家庭裁判所での検認のあと、調停や訴訟などの法的手続を経て、裁判所で偽造が認定されれば、最終的には遺産分割協議へと進みます。
(1)遺言書の検認
偽造の疑いがある場合でも、まずは家庭裁判所において、検認手続の手続きをおこなう必要があります。その際、家庭裁判所では遺言の有効無効の判断はされず、あくまでも遺言書の現状確認(客観的状態)の確認がおこなわれます。
(2)証拠収集
①証拠収集の基本
たとえば、筆跡に関する証拠を集める場合は、手紙や日記など、本人の筆跡サンプルを用意して、専門家による筆跡鑑定を依頼します。
遺言書の作成日時点における遺言者の体調や意思能力に関する証拠も重要です。医師の診察カルテや介護日誌、認知症の診断記録などを入手して確認します。
②偽造を証明するためのポイント
●筆跡鑑定
筆跡鑑定は、遺言者の筆跡と遺言書を比較して分析する専門的な鑑定ですが、決定的な証拠にならないこともあります。筆跡は、年齢や健康状態など、様々な要素によって変化する可能性があるからです。
そのほかには、偽造が疑われる人の筆跡サンプルを提出し、遺言書との類似点を証明することによって、推認力を高める方法もあります。
●遺言能力がなかったことの証明
長谷川式認知症スケールの結果や、医師の診察カルテや介護記録、施設の入所記録などによって、遺言者に自筆能力や判断能力がなかったことを証明する方法もあります。
客観的な記録から遺言能力の欠如を示すことができれば、遺言書の信頼性は低下し、偽造を推認させることができるでしょう。
●発見状況や日時についての不自然さの証明
たとえば、遺言で大きな利益を受ける特定の人物が遺言書を秘匿していたとか、遺産分割協議が難航したときに、突然遺言書が見つかったなど、不審な点があれば、遺言の有効性を疑う根拠として考慮される可能性があります。
(3)遺言無効確認調停の申し立て
偽造の有力な証拠が見つかったら、まずは家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では裁判官と調停委員が仲介して、当事者間(相続人全員)で紛争解決を目指します。
調停で相続人の合意が成立すれば、遺産相続は調停の内容に従って解決しますが、合意に至らない場合は次のステップである訴訟に進みます。
(4)遺言無効確認請求訴訟の提起
次のステップとしては、遺言の内容に不服に思う相続人が、「遺言無効確認訴訟」を提起することになります。
訴訟では、収集した筆跡鑑定書や医師の診断書などの証拠を提出するとともに、証人尋問も行われます。様々な状況証拠をもとに、偽造の有無が決定され、偽造があると判断されると、遺言は無効になります。
(5)遺言書が無効になった場合は遺産分割協議
遺言書が無効になると、その遺言書は効力を失うので、相続人全員で改めて遺産分割協議をおこなう必要が生じます。
協議の結果、相続人全員の合意が得られれば、遺産分割協議書を作成し、その内容に従って遺産分割をおこないます。協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、それでも解決しなければ遺産分割審判へと進みます。
遺言書は公正証書で
自筆証書遺言は、費用もかからず一定の形式を満たせば有効な遺言書が作成できるので手軽ではありますが、偽造や紛失のトラブルが生じるリスクがあります。公証人の立ち会いのもとで作成され、公証役場で遺言書の原本が長期間保管される公正証書遺言と比べると、信頼性は劣ります。
したがって、遺言書を作成するときは、偽造による相続トラブルを避けるためにも、公正証書遺言を選択すべきでしょう。





コメント