【相続問題】相続人が預金引き出しをする際の注意点
- 行政書士 服部祥明

- 11 分前
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家族が亡くなって相続が発生すると、預貯金は遺産分割の対象となり、遺産分割協議成立まで、相続人全員の準共有となります。
そのため、銀行口座からの預金の払い戻しは、遺産分割協議が成立した後であるというのが原則です。しかし、家族が亡くなると、葬儀費用や入院費用の精算など、急な支払いが必要になる場面は少なくありません。
このような場合に、遺産分割協議が終わる前に預貯金を引き出すことはできないのでしょうか。
預金者が亡くなると口座はどうなる
被相続人(亡くなった人)の銀行口座は、、財産遺産分割の対象財産となります。
そのため、原則として、遺産分割協議が終わるまで、相続人が単独で払い戻すことはできません。もし、ほかの相続人の同意なく預金を引き出すと、後から使い込みを疑われ、返金を求められるなどのトラブルに発展する危険があります。
なお、金融機関は、預金者が亡くなった旨の連絡があると、口座を凍結し、それ以降は出金や振込ができない状態になります。
相続人が単独で払い戻しを受ける方法
遺産分割協議前であっても、預金の一部について、単独の相続人が払い戻しを受けることができる場合があります。
(1)遺言書による指定がある
被相続人が生前に作成した遺言書に、特定の預金口座を受け取る相続人が明確に指定されている場合は、払い戻しが可能です。
遺言書と、そのほかの必要書類(被相続人の戸籍謄本や相続人の印鑑証明書など)を金融機関の窓口に提示することで、口座の解約や名義変更の手続きを進めることができます。
(2)預貯金の仮払制度
「預貯金の仮払制度」は、遺産分割が終わるまでの間、葬儀費用や残された家族の当面の生活費などの支払いに困らないようにするために設けられた制度で、当座必要とする金額を払い戻すことができます。
払い戻し可能な金額の計算式は以下の通りです。
●(預金残高)×(1/3)×(相続人の法定相続分)
ただし、同一の金融機関からの払戻しは150万円が上限です。
(3)仮分割の仮処分
預貯金の仮払制度の上限額では必要な金額を支払えない場合には、家庭裁判所に対して、「預貯金債権の仮分割の仮処分」を申立てる方法があります。
申立てが認められるための主な要件は以下のとおりです。
●遺産分割の調停や審判がすでに申立てられていること
●相続債務の弁済や相続人の生活費など、引き出す必要性があること
●他の相続人の利益を害さないこと
なお、仮払い可能な金額は、通常は資産性のある遺産総額の法定相続分が上限となり、相続債務も考慮されて決定されるようです。
トラブルになりやすい払い戻しケース
トラブルの元になるので、本来は被相続人の銀行口座に手を付けるべきではないのですが、家族がキャッシュカードの保管場所と暗証番号を知っていれば、葬儀費用や医療費などの支払いを目的として、口座が凍結される前に引き出されるケースはあります。
被相続人の預金口座からお金を引き出す正当な目的があったとしても、自分以外の相続人に不信感を抱かれ、使い込みを疑われるなど、トラブルの火種になりやすいものです。
(1)相続分超過の引き出し
被相続人の預金から、自分の法定相続分を超える金額を引き出した場合は、自分以外の相続人の取り分を侵害してしまうため、トラブルに発展しやすくなります。
したがって、葬儀費用や医療費の支払いで必要な場合であっても、自分の法定相続分を超える金額を引き出すことは避けたほうがよいでしょう。
やむを得ず引き出す場合でも、かならず領収書や振込票を残し、必要な払い戻しであることを、ほかの相続人に説明できるようにしておきましょう。
(2)使途不明金になっている
前述のように、預金口座から引き出したお金を、何にいくら使ったのかについて、第三者から質問された際に明確に説明できないというのは危険です。
説明できないと着服の疑念を抱かれ、トラブルの原因となります。
(3)隠蔽
預金の振り出しという事実そのものを、ほかの相続人に隠していると、後に事実が発覚した際に、預金の隠匿を疑われ、深刻な問題に発展する危険があります。
トラブルを回避するために
たとえ、葬儀費用などの必要な支出のために使うためであっても、安易に預金を引き出すと、自分以外の相続人から、不当利得返還請求や損害賠償請求をされる可能性があります。
また、単純承認したとみなされ、被相続人に多額の借金があったとしても、相続放棄できなくなるリスクがあることにも注意が必要です。
紹介したトラブルを完全に避けるためには、口座の名義人が亡くなったことを金融機関に伝えて、口座を凍結させたうえで、「預貯金の仮払制度」を経るのが基本です。
しかし、正当な必要経費の払い戻しが認められないわけではありません。
その前提としては、被相続人の銀行口座の存在について、相続人全員と共有することが重要です。必要な支出をした場合は報告を怠らず、領収書や明細書で証拠を残しておくことを徹底しましょう。





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